命は誰のためにある? ある軍人一家の話(涙が止まらない)

歴史

戦争と家族のカタチ

どのようなお話なの?

ときは戦時下、太平洋戦争・大東亜戦争の末期です。

アメリカの攻勢がどんどん強くなって、本土を絶対防衛するという事が最重要課題になってきました。

もともと物資や資源に乏しい日本軍は不利な戦況になっていました。

そこで、特別攻撃という作戦が発案されます。 以下”特攻”とします。

 

余談ですが、特別攻撃は航空機のイメージが強いですが、潜水艦のようなタイプで水中から敵艦へ体当たり攻撃をする作戦も存在しました。潜水艇には(回天)という名がつけられています。人間魚雷という言葉は聞いたことがあると思います。これにもたくさんの人間物語があります。

 

ご存じだと思いますが、弾薬を積載した航空機によって敵艦に体当たり突撃をする事です。

当然、任務を終えて帰還するようなことは初めから考えられていません。

帰還用の燃料も燃料タンクには入っていません。敵艦への片道分の燃料で出撃するのです。

任務はとてもシンプル、敵艦に体当たりをして打撃を与えて、操縦者はそこで死ぬ事が全てです。

体当たり攻撃をしてその場で死ぬ事が全てであって、国のため愛する家族のために命を捧げるといったことで気持ちの整理をしていたのかもしれません。

そのように語り継がれることが多いと感じます。

そんな、若い特攻兵を訓練していた一人の教官がいました。

藤井一中尉(29歳) (ふじいはじめ ちゅうい)です。

ご存じと思いますが、念のために…”中尉”とは軍内の階級のことです。

藤井一中尉の家族構成  妻・福子24歳  長女・一子3歳  次女・千恵子4ヵ月

 

藤井中尉は自問自答することになります。

教え子たちが特攻隊として 死んでいく。しかし、教官の自分は安全な場所にいる。「日本が大変なときに、オレは教 えるだけでほんとうにいいのか」

引用・あした死ぬかもよ  著・ひすいこうたろう

藤井中尉の若き教え子たちは、特攻で命を落とすことが決定している。

死ぬ事が決定している若い兵隊さんへ、教育を施す事の複雑な心境は計り知れません。

それは正しい事なのだ!名誉な事なのだ!軍神になるのだ!

精神訓話というメンタル系の教官だったとのことですので、純粋な精神世界の中で、自分だけ生きている事は理屈に適っていなかったと考えてしまう事は十分に想像できます。

「お前たちだけを死なせない」

そこで、藤井中尉は自らの特攻を志願しますが、却下されてしまいます。

それもそのはず、藤井中尉には妻と幼い子供二人がいたのでした。

妻子のある将校は原則として特攻には採用されなかったそうです。

それでも藤井中尉の固い意志は変わらずに、特攻への嘆願書を再び提出するのでした。

そのことを知った妻の福子さんは、自分と二人の子共がいるために夫は死んでいった若き特攻兵の魂に報いるための特攻ができなくて苦しみ、思い悩んでいる。

自分たちがいなくいなれば、夫は苦しみ悩むことなく安心して特攻に参加できる。

そして、福子さんも固く決意するのでした。

「私たちがいたのでは後顧の憂いになり、 思う存分の活躍ができないでしょうから、一足先に逝って待っています」という遺書を残 し、3歳間近の長女・一子ちゃんと、生後4ヵ月の次女・千恵子ちゃんに晴れ着を着せて、 厳寒の荒川に身を投げたのです。

引用・あした死ぬかもよ  著・ひすいこうたろう

母親と子供達2人はしっかり紐で縛られた状態で、奇麗な晴れ着を召したまま翌日遺体となって発見されたそうです。

そして、藤井中尉は血染めの特攻嘆願書を提出し、受理されました。

念願の特攻で藤井一中尉29歳の命が散りました。

若き特攻兵も教官も教官の妻も幼い子供達も…

みんな死んでしまった…

そして国は戦争に負けました…

いったい…

なんのために?だれのために?

そんな物語です。

物語りの最後に、藤井中尉が心中で亡くなった一子ちゃんへ宛てた遺書をご紹介します。

12月になり冷たい風が吹き荒れる日、荒川の河原の露と消えた命。母とともに血の燃え る父の意志にそって一足先に父に殉じた、哀れにも悲しい、しかも笑っているように喜ん で母と共に消え去った幼い命がいとうしい。父も近くおまえたちの後を追って逝けること だろう。必ず今度は父の暖かい胸で抱っこしてねんねしようね。それまで泣かずに待って いてね。千恵子ちゃんが泣いたらよくお守りしなさい。ではしばらく、さよなら。

引用・あした死ぬかもよ  著・ひすいこうたろう

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